智多とあいの大学生活開始録〜④サークル勧誘地獄と運命の出会い〜
前→ illust/144167864
大学生活が始まって一カ月。あいはすっかり大学に馴染んでいた。
⋯が、馴染んだとはいえ、「ここのところ毎日」避けられないイベントがある。
サークル勧誘。
春学期のキャンパスは、どこを歩いてもビラと声かけの嵐だ。特に「目立つ一年生」には、勧誘が集中する。
そして⋯あいは、完全に「目立つ一年生」だった。
トートバッグを肩にかけ、次の講義に向かうためにキャンパス内を移動しているだけで声が飛んでくる。
「ねぇ君!テニスサークル興味ない?」
「映画研究会どう?初心者歓迎だよ!」
「軽音部!ボーカル探してます!」
「ねぇねぇ、君絶対ダンス向いてるって!」
あい(⋯今日もかぁ)
あいは苦笑しながら、にこやかに、しかし丁寧に断っていく。
あい「ごめんね、まだ決めてなくて。また声かけてくれたら嬉しいな」
にこりと笑顔で返すと、相手は大抵「お、おぅ⋯」と照れたように引き下がる。
あい(⋯ま、多分あの連中の考えてることなんて、碌でもないんでしょ。それじゃ、私の「やりたいこと」も出来ないし、⋯多分満足しないし)
人知れずため息を付くと、あいは慣れた足取りで講義棟へ向かった。
──そして昼休み。
今日はたまたま一人になったあいは、昼食何を食べようかなぁと学食へ向かう途中、ふと足元に一枚のビラが落ちているのに気づいた。
あい「⋯ん?」
そこに書いてある文言がひっかかり、しゃがんで拾い上げる。くしゃくしゃになったA5サイズのビラには、こう大きく書かれていた。
『アイドル研究会 新入生歓迎!』
『本当のアイドル考察がここなら出来る!』
『気軽に来てね!』
あい(⋯アイドル⋯研究会!?)
あいはビラを見つめたまま、ゆっくりと口元が上がっていく。
あい(⋯へぇ⋯)
ニヤリ。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。今まで温めていた計画のパズルのピースが、カチリと当てはまったような気がした。
あい(⋯ここ、使えるかも)
あいは昼食をやめ、そのくしゃくしゃになったビラを握りしめ、そのまま部室棟へ向かった。
アイドル研究会の部室は、他のサークルも入っている建物の廊下の一番奥、ほとんど人が通らない暗がりの場所にあった。
あい(⋯ここかぁ)
誰かいるのかな、そう思ったあいはドアの前に立つと、⋯中から小さな話し声が聞こえる。どうやら、数人の男が話をしているようだ。
?「⋯今日も新入生来ないな⋯」
?「⋯女子なんて一生来ない⋯こっちはプロデュースとか日々研究してんのに⋯」
?「プロデュースて、その前に女子が来なきゃ出来ないだろ⋯ていうか一年の『あの子』とか絶っ対来ないでしょ⋯」
?「「「はぁぁ⋯(3人分のため息)」」」
あい(⋯あの子?)
あいは首をかしげた。
あい(⋯私のこと?)
気になった瞬間、あいの中でスイッチが入った。⋯大当たりな気がする。
あい(よし⋯行くか!)
そして──
あい「たのもーーーっ!!!」
ドアを蹴破る勢いで開けた。
三人の男が同時に固まった。
黒パーカーの男。メガネの男。ぽっちゃりの男。
全員、根暗オタクの香りしかしない。
だが⋯次の瞬間。
パーカー男「な、なんで!?あの一年の子が!?え、幻覚⋯?」
メガネ男「し、資料でしか見たことない⋯まじ?え、え、え⋯!?」
小太り男「お、俺の推しが⋯!?え、夢⋯?死ぬ⋯?」
あいは満面の笑みで頭を下げた。そして顔を上げると、目一杯の笑顔を見せる。⋯男たちには、それが女神のように見えた。
あい「一年の黒川あいです!アイドル研究会、興味あって来ました!」
三人は、ぽかんと口を開けたまま固まっている。⋯やがて、黒パーカーの男が震える声で絞り出すように言った。
黒パーカー男「え⋯入りたい、です⋯?」
あいは首を横に振った。
あい「そうじゃなくて⋯相談があって来ました!」
三人「「「相談!?」」」
三人はぽかんとした顔。その中でもメガネ男がメガネを押し上げながら、震える声で聞き返す。
黒パーカー男「そ、相談って?な、何?ひ、冷やかしなら帰って⋯」
あいはビラを胸の前で軽く揺らしながら言った。
あい「私⋯アイドルになりたいんです。落ちてたビラを見させてもらって、今のあたしに何が足りないのか、きちんと知りたくて。だから、あなたたちの知識と経験値⋯貸してくれませんか?」
三人は一瞬、完全に固まった。
そして——
黒パーカー男「か、貸す⋯!?貸すどころか⋯!」
メガネ男「ぼ、僕たちでよければ⋯!え、プロデュース!?ほんとに!?」
小太り男「神のプロデュースができるぅ!?」
あい「はい!」
三人は勢いよく立ち上がり、机に手をついて深々と頭を下げた。
黒パーカー男「ぜひ我々にお任せください!!」
メガネ男「全力で分析します!!」
小太り男「推し活の全てを伝授します!!」
あいは思わず笑ってしまった。
あい(⋯この人たち⋯予想以上に使えるかも)
あい「じゃあ⋯そんな感じでよろしくお願いします!」
三人は同時に叫んだ。
三人「「「こちらこそぉぉぉ!!!よろこんでぇぇぇ!!!」」」
部室の空気が、一瞬で熱気に包まれた。
あい(⋯ふふっ、大学生活、もっと楽しくなりそう)
次→ illust/144251561
大学生活が始まって一カ月。あいはすっかり大学に馴染んでいた。
⋯が、馴染んだとはいえ、「ここのところ毎日」避けられないイベントがある。
サークル勧誘。
春学期のキャンパスは、どこを歩いてもビラと声かけの嵐だ。特に「目立つ一年生」には、勧誘が集中する。
そして⋯あいは、完全に「目立つ一年生」だった。
トートバッグを肩にかけ、次の講義に向かうためにキャンパス内を移動しているだけで声が飛んでくる。
「ねぇ君!テニスサークル興味ない?」
「映画研究会どう?初心者歓迎だよ!」
「軽音部!ボーカル探してます!」
「ねぇねぇ、君絶対ダンス向いてるって!」
あい(⋯今日もかぁ)
あいは苦笑しながら、にこやかに、しかし丁寧に断っていく。
あい「ごめんね、まだ決めてなくて。また声かけてくれたら嬉しいな」
にこりと笑顔で返すと、相手は大抵「お、おぅ⋯」と照れたように引き下がる。
あい(⋯ま、多分あの連中の考えてることなんて、碌でもないんでしょ。それじゃ、私の「やりたいこと」も出来ないし、⋯多分満足しないし)
人知れずため息を付くと、あいは慣れた足取りで講義棟へ向かった。
──そして昼休み。
今日はたまたま一人になったあいは、昼食何を食べようかなぁと学食へ向かう途中、ふと足元に一枚のビラが落ちているのに気づいた。
あい「⋯ん?」
そこに書いてある文言がひっかかり、しゃがんで拾い上げる。くしゃくしゃになったA5サイズのビラには、こう大きく書かれていた。
『アイドル研究会 新入生歓迎!』
『本当のアイドル考察がここなら出来る!』
『気軽に来てね!』
あい(⋯アイドル⋯研究会!?)
あいはビラを見つめたまま、ゆっくりと口元が上がっていく。
あい(⋯へぇ⋯)
ニヤリ。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。今まで温めていた計画のパズルのピースが、カチリと当てはまったような気がした。
あい(⋯ここ、使えるかも)
あいは昼食をやめ、そのくしゃくしゃになったビラを握りしめ、そのまま部室棟へ向かった。
アイドル研究会の部室は、他のサークルも入っている建物の廊下の一番奥、ほとんど人が通らない暗がりの場所にあった。
あい(⋯ここかぁ)
誰かいるのかな、そう思ったあいはドアの前に立つと、⋯中から小さな話し声が聞こえる。どうやら、数人の男が話をしているようだ。
?「⋯今日も新入生来ないな⋯」
?「⋯女子なんて一生来ない⋯こっちはプロデュースとか日々研究してんのに⋯」
?「プロデュースて、その前に女子が来なきゃ出来ないだろ⋯ていうか一年の『あの子』とか絶っ対来ないでしょ⋯」
?「「「はぁぁ⋯(3人分のため息)」」」
あい(⋯あの子?)
あいは首をかしげた。
あい(⋯私のこと?)
気になった瞬間、あいの中でスイッチが入った。⋯大当たりな気がする。
あい(よし⋯行くか!)
そして──
あい「たのもーーーっ!!!」
ドアを蹴破る勢いで開けた。
三人の男が同時に固まった。
黒パーカーの男。メガネの男。ぽっちゃりの男。
全員、根暗オタクの香りしかしない。
だが⋯次の瞬間。
パーカー男「な、なんで!?あの一年の子が!?え、幻覚⋯?」
メガネ男「し、資料でしか見たことない⋯まじ?え、え、え⋯!?」
小太り男「お、俺の推しが⋯!?え、夢⋯?死ぬ⋯?」
あいは満面の笑みで頭を下げた。そして顔を上げると、目一杯の笑顔を見せる。⋯男たちには、それが女神のように見えた。
あい「一年の黒川あいです!アイドル研究会、興味あって来ました!」
三人は、ぽかんと口を開けたまま固まっている。⋯やがて、黒パーカーの男が震える声で絞り出すように言った。
黒パーカー男「え⋯入りたい、です⋯?」
あいは首を横に振った。
あい「そうじゃなくて⋯相談があって来ました!」
三人「「「相談!?」」」
三人はぽかんとした顔。その中でもメガネ男がメガネを押し上げながら、震える声で聞き返す。
黒パーカー男「そ、相談って?な、何?ひ、冷やかしなら帰って⋯」
あいはビラを胸の前で軽く揺らしながら言った。
あい「私⋯アイドルになりたいんです。落ちてたビラを見させてもらって、今のあたしに何が足りないのか、きちんと知りたくて。だから、あなたたちの知識と経験値⋯貸してくれませんか?」
三人は一瞬、完全に固まった。
そして——
黒パーカー男「か、貸す⋯!?貸すどころか⋯!」
メガネ男「ぼ、僕たちでよければ⋯!え、プロデュース!?ほんとに!?」
小太り男「神のプロデュースができるぅ!?」
あい「はい!」
三人は勢いよく立ち上がり、机に手をついて深々と頭を下げた。
黒パーカー男「ぜひ我々にお任せください!!」
メガネ男「全力で分析します!!」
小太り男「推し活の全てを伝授します!!」
あいは思わず笑ってしまった。
あい(⋯この人たち⋯予想以上に使えるかも)
あい「じゃあ⋯そんな感じでよろしくお願いします!」
三人は同時に叫んだ。
三人「「「こちらこそぉぉぉ!!!よろこんでぇぇぇ!!!」」」
部室の空気が、一瞬で熱気に包まれた。
あい(⋯ふふっ、大学生活、もっと楽しくなりそう)
次→ illust/144251561
StudioTitanium
Comments
No comments